「真央の方から、あなたの話はよぉーく聞いてました」
そう言って視線をこちらへ向ける。
「とても大切な人が出来た、と。あの真央があんな大人の表情をするなんて、子供の成長とはあっという間ですね。
真央は静綺さんにとても助けられていると言っていましたよ」
真央が?そんな事を?
「あなたが居るから今の自分が居る、と。
もしかしたらあなたに会ってなかったら自分は今頃芸能界に居なかったかもしれないって。
繊細でとても傷つきやすい子です。そんな真央を支えて下さってありがとうございます」
長岡会長の言葉に、涙がこみ上げてきそうになる。
…そんな事を陰で言ってくれているなんて知らなくって、彼を傷つけてばかりで。
「私は何もしていないんです…。それどころか真央の事を傷つけてばかりで…」
そこまで言って、頬を温かい物が伝う。
げ。私何を会長の前で泣いちゃってんの?無意識のうちに涙を流してしまうなんて恥ずかしい。
パーカーの袖で涙をぐいっと拭った。
「あ、ごめんなさい。つい汗が目から出ちゃって」
言い訳にしては苦しすぎるか?
その様子を見て、長岡会長は少し前のめりになって私の肩を数回ぽんぽんと優しく叩いた。
何て温かい眼差しを持っている人だろう。相当偉い人な筈なのに偉ぶった所のひとつも見せずに、柔らかい雰囲気を持っている人。真央がこの人に信頼を置いている気持ちが少しだけ理解る。
きっと私の知らない長い時間を一緒に過ごして、そこには信頼関係があったのだろうけれど。とても威圧的だった社長とはタイプが全く違う人だ。



