変に緊張してしまう日本語も滅茶苦茶になってしまう。
けれど顔を上げた先、優しく微笑むその瞳は…どう見ても私へ嫌な感情を持っているとは思えなかった。
「そんなに謝らないで下さいな。そこまで姫岡真央という俳優を大切に想って頂き感謝しています。
そして真央と真央の仕事を大切に想ってくれてありがとう。そんなあなたの想いに彼も救われていると思います。
それに僕は君の事も真央からよぉーく聞いてます。なので今日あってこんなに良い娘さんで安心しています」
「え?」
私は相当惚けた顔をしていたに違いない。
目の前の人は’真央’ととても親しみをこめて呼ぶ。
長岡…この人は自分を長岡だと名乗った。その名前には聞き覚えがあった。
いつかの記憶と重なった時、この人…まさか。
「会長ッ!」
息を切らせて慌てて寮へ入って来た山之内さんは、私の目の前に座っている人を見て真っ先に’会長’と呼んだ。
そして片手を挙げてそれを振りながら笑顔の男は答えたのだ。
「おお、山之内さん。久しぶり」
「お、遅くなって、申し訳ありませんッ。ゴホッゴホッ…」
「あぁ~そんな急いで来なくたって良かったのにぃ。
このお嬢さんにお話し相手になってもらっていたのだから」
「まさか…」
ごくりと生唾を飲む音が自分の中に響く。
芸能界の帝王と呼ばれる社長に会ったのは数か月前の事。確かに彼も’長岡’と名乗っていた。
高そうなスーツをきちっと着こなしどこか厳しい感じのある人だった。それに対し、目の前会長と呼ばれる男性はラフな格好で見た目だけで見ればどこにでも居るようなおじいちゃん。
ただ者ではないオーラは感じた。けれどまさかこの人が……グリュッグエンターテイメントのトップに君臨する人だとは――。



