私達、こんな終わり?冷静になって話し合いもしないまま…。

スーパーの袋をふたつ持って寮までの帰り道。太陽の光りが燦燦と降り注ぐ中、もうパーカー1枚でも丁度良い季節になったと肌で感じる。

「はぁーーーーーー」

大きなため息が漏れる。最近はずっとこの調子だ。
寮までの帰り道も真央の事で頭がいっぱいだった。そして…この寮の行方は?

瑠璃さんと豊さんは半ば諦め気味で、新しい住居を探すと住宅情報誌を手にしていた。たとえこの寮が無くなってバラバラになったとしても、瑠璃さんたちとの縁が途切れる訳ではないが…。

そんな事を考えながら、寮の前へ到着すると、そこには見知らぬ老人が居て寮の前をウロウロとしている。

「誰だろう?あの……」

声を掛けると振り向いた初老の男性。

70代は過ぎているだろう。ジャージにトレーナとお世辞にも綺麗とは言えない格好をしていて黒いキャップを被っている。そこから見えた髪の毛は白髪混じりだった。

背は私と同じくらいで、皺だらけの顔は優しそう。こちらに気づくとぺこりとゆっくり頭を下げる。

「こんにちは」

ゆっくりとして優し気な声のトーン。眼鏡の奥の瞳はもっと優しかった。

「こんにちは、えっと。」

ぱたぱたと足音を立ててその人の元へ駆け寄ると、寮の入り口の直ぐ先にある警備室を指さして「誰も居ないみたいだけど?」と小首を傾げる。

何ともほんわかしていて可愛らしいおじいちゃんである。

もしかしてボケてここにたどり着いてしまったのかな?と思ったけれど、にこりと微笑んだまま彼は言った。