Act 10  この恋を手放さなくてはいけない時。




「お前誰だよ、静綺に気安く触ってんじゃねぇ!」

「誰だよって棚橋の同級生ですけど。
何なんすか?いきなりやって来て」

ふたりは向き合って睨み合う。雄太も雄太で彼が真央だと認識しても一歩も退く事はないようだ。

騒然とする居酒屋内で、りっちゃんが顔を出して「まずい」とこちらへ向かって口パクをしてきた。その横で隼人くんも驚いたように声を上げる。

「あぁ?お前誰に向かって口聞いてんだ?」

「芸能人だからってそんなに偉くないでしょーが、大体同級生と遊んでる位で怒ってわざわざ来るとかどうかと思いますけど?」

「ちょっと、雄太止めなよ。
ひ、姫岡さんごめんなさい。今日はあたしが静綺に無理に付き合ってもらって…」

りっちゃんが間に入ってふたりを宥めようとする。
けれどりっちゃんの’雄太’という名前を聞いて、真央の眉がぴくりと動いた。

ピタッと動きを止めて、私の腕を握る力がより一層増したと思ったら、雄太を少し見上げて強い眼差しで睨みつける。

「お前かッ!雄太!」

激しく鼓膜を揺さぶるような大声。

腕の力が緩んだかと思ったら、それと同時に真央は雄太の胸倉を強く掴み、壁まで強く強く押し付けた。

「真央!止めてよッ」

茶色の鋭い視線が、雄太へと真っ直ぐに突き刺さる。その余りの迫力には雄太も一瞬怯んでしまう。

「幼馴染だが法学部だが知らんが、金輪際静綺に近づくんじゃねぇ!」

そう言って、パッと腕を離した。 雄太は壁に体を強く打ち付けられ、その場で蹲ように倒れた。