真央以外の誰かと楽しい気持ちで時を刻むのは、真央に失礼すぎる。これじゃあ普通のデートも出来ない真央を無言で責めている様じゃないか。
無言で下を向く私の手を、雄太が突然掴んだ。
冷たい空気が吹きすさぶ中で、温かい温もりが伝ってくる。
振りほどかなくちゃいけないって分かっている。けれどどこまでも強引な彼は、無理やり私の手を取って走り出した。
「行こう!人混みだからはぐれないように!」
「ちょっと、雄太…!」
するりと人混みをすり抜けていく、振り返って笑った雄太の笑顔が小学生だった頃の無邪気な笑顔と重なった。
どうしてこの手を振りほどけないのだろう。小学校から知っている幼馴染だから?あの頃は何とも思わなかったのに。
’雄太って静綺の事が好きらしいよぉ~?’そう小学校の頃聞いた時、思いもしなかった事にびっくりした。雄太は人気者でクラスでも目立つ存在だったから。
スポーツが得意で、雄太を好きな女の子も沢山いて。悪い気はしなかったけれど、所詮小学生の戯言。けれど、大学生になっていつの間にか大人になった同級生にときめかないと言ったら嘘になる。
私ってなんてふしだらな女だったのだろう。雄太は私へ明らかな好意がある。それを悪い気がしないだなんて。
これが不細工に成長した同級生だったら私はときめなかった…筈。背も大きくなっていて爽やかイケメンに成長した同級生。しかも検事を目指し、法学部に通う将来のエリート候補。
そんな人が明らかに好意を見せて、まんまとそれに乗っかってしまっている。私には真央が居ると言うのに…。



