「棚橋静綺じゃん。男といるよ?」
「えー?姫岡真央と別れたのかな?」
「結構かっこいい子と一緒にいるね」
その言葉に雄太は再び不思議そうな顔をした。やばい、このままじゃあ雄太にも私の彼氏が真央だってバレてしまう。
雄太の手を引っ張り、大学から出ようとしたその時だった。
「静綺じゃーん!」
なんというバッドタイミング。
情報通で歩く週刊誌と呼ばれる同じ学科の春香と偶然遭遇してしまう。
そもそもグリュッグエンターテイメントの寮でバイトをするきっかけはこの友人であった。
春香は私の方へやって来て、私と雄太を交互に見た。そしてニヤリと笑った。
「えー?誰よー?姫岡さんとどうなってんの?」
だから余計な事を言うな!と口にしたくっても出来なくって、思わず苦笑い。
「え?!がちで新しい男?姫岡真央と別れちゃったの?」
「ち、違……。彼は小学校の頃の同級生で」
つらつらと言い訳を並べて見るけれど、隣に並ぶ雄太の視線が痛い。
「えー?そうなの?かっこいい子だね?あんなかっこいい彼氏がいるんだから浮気は駄目だよ~?
静綺ただでさえ大学では有名人なんだから。
あ~、でもいいなぁ。彼氏が姫岡真央なんて~」
だから余計な事を。それだけ言い残して春香は手を振ってその場を後にした。
隣に居た雄太へとゆっくりと視線を落とす。やっぱり彼は眼を丸くして「ひめおか、まお?」と不思議そうにその名を口にするのだ。
「なぁ、棚橋の彼氏って…!」
「ゆ、雄太!取り合えず大学は目立っちゃうから、どっかカフェに行ってお茶でも!」



