一旦図書室に行って、友人たちに友達が来たと告げて直ぐに大学の入り口の所まで向かう。…こうやってこそこそ他の男と会いたくないんだけど。
駐車場と繋がっている大学の入り口は、お昼のせいだろうか人の出入りがやけに激しかった。
じろりと視線が突き刺さるのは、私が真央の彼女としてこの大学で有名になってしまったからだ。
「あれ、棚橋静綺じゃん。食物栄養の」
「マジ?初めて見るんだけど。案外普通だね」
名前も全然知らないような人間が、私のフルネームを知っている。それってある意味恐怖だ。
今までの人生でこういった経験は勿論ない。顔が派手で生意気そうである事以外、人に害を与えずに生きて来たつもり。
しかしここに来て私は校内ではすっかりと有名人になってしまったのだ。
背中を丸めなるべく目立たないように歩く。しかし大きな声で「棚橋!」と名前を呼ばれて、心臓が飛び上がると思った。
恐る恐る振り返ると、そこには雄太の屈託のない笑顔があって、何度も私の名前を呼んでこちらに向かって手を振る。
あんまり名前を呼ばないで!周りの学生からますます注目を集める羽目になってしまった。
「棚橋!久しぶりだな!」
「シーッ!」
雄太の口を押えると、驚いたように眼を丸くする。
「つーか…俺ら注目されてる?」
不思議そうな声を上げる雄太。それもそのはず、雄太はちっとも理解なんかしちゃいないんだろうけど、私はここではちょっとした有名人なんだ。
しかも姫岡真央の’彼女’という事で、そんな噂が立ってる女が大学構内で男と仲良さげにしていたら、それはそれで問題がある。
しかし私を取り囲む好奇の目と共に、何人かの女子のひそひそ声が聴こえる。



