それはいつだって私の為だった。

自分が普通じゃないって理解しているからこそ、私に出来るだけ普通のデートをしてあげたいって気を遣ってくれているんだ。

誰もいない路地裏で、真央の手をぎゅっと握りしめる。

さっきまで苦しい顔をしていたのに、その瞬間不思議そうな表情に変わる。そっと真央の胸へ顔を埋める。

「私はその気持ちだけで嬉しいんだ。真央が私の事を考えてくれてるってだけで、すっごく嬉しい」

「でも…静綺…」

顔を上げてにこりと微笑む。
これは心からの本心。

「私真央と一緒に居られるだけで嬉しい。
ね、今日は帰ろう。クリスマスのやり直ししようよ。今日は真央だけの為にご馳走を作るんだからッ!」

「ごめんな…」

謝らせてしまうのは申し訳ない。
今日はお洒落なレストランも予約していたらしいが、キャンセルをしてもらった。

こんな状況じゃあ騒ぎになる一方だ。改めて自分が有名な人と付き合っていると再確認する。


私はそれでも良かった。けれど真央は少しだけ違ったみたいだ。出来るだけ普通に、そうしようとすればするほど空回りしていく時間の中で

疲れてしまうのは真央自身ではないかと心配になった。

これが岬さんのような同業者だったのならば、同じ気持ちを分かち合えるのかもしれない。

花乃さんのような理解のある大人ならば、スマートに真央の気持ちを汲み取ってあげられたかもしれない。

普通にしてあげる事が出来ない。それが真央を苦しめていたなんて、この時の私は気づいてあげる事が出来なくて…。