イルミネーションを見る余裕は無かった。
それならば、とショッピングをしようとするとお店には人だかりが出来てしまう。

食べ歩きをしようとお店に並べば、そこもたちまち人だかり。
真央は人に囲まれてサインやら握手やらを強請られる。

分かってはいた。分かり過ぎていた。こうやって街に出ればこうなる事は。

何とか人だかりから抜けて、狭い路地裏にやってきた時、真央は申し訳なさそうに頭を下げる。

「すまない。こんな事になるとは…」

「いや、想像してた事ではあったけどね。真央は自分の知名度を舐めすぎだよ」

「だからって!あんなに人が集まって来る事はねぇだろ!客寄せパンダじゃねぇ!」

「仕方がない事でしょう?あんまりカッカッしない」

「俺はただ…お前が望むような普通のデートをしたかっただけなのに…。
そんな少しの時間の普通さえも俺は許されないのか?」

また傷ついた顔をする。私の為にしてくれようとしたのは知ってるから、申し訳ない気持ちになる。

誰より普通で居たかったのは真央のはずなのに。テレビに出ている人だから、それを世間は許してはくれない。

「私は別に真央とふたりで家でまったりするのも楽しいよ?」

「俺はそれじゃあ嫌なんだよッ!お前たち大学生同士がするような普通のデートをしてやりてぇんだよッ!」