私の様子を汲んでか豊さんが慰めるように優しい言葉を掛ける。
「つっても静綺ちゃんのせいではないから」
「うん……でも」
「そーだよ。静綺ちゃんは何も悪くないじゃん…!
だいじょーぶ、だいじょーぶ。何とかなるってー。それより今日のご飯は何ー?
お腹ぺっこぺっこ。」
私に抱き着く瑠璃さん。
人懐っこい瑠璃さんはスタイル抜群のグラビアアイドル。
その横でクールに決めるのはお笑い芸人の豊さんで
最近瑠璃さんは深夜バラエティーのレギュラー出演が決まって、豊さんもちらほら若手芸人としてテレビで姿を見せるようになった。
「今日は茄子の肉味噌丼だよ」
「うきゃー美味しそう~」
「おくらと長いものサラダとほうれん草のかきたま汁ね」
「わーいわーい。静綺ちゃんのご飯好きー。」
浮かない気分でキッチンに立ち包丁を握る。
大学では栄養学を専攻している私は、元々料理をするのが好きで、このグリュッグエンターテイメントの寮で友達から夏休みに家事などのバイトを頼まれる。
まさか初めは芸能事務所だとは思わず古びていて薄汚れた不気味な寮を見た時は不安な気持ちでいっぱいだった。
けれども私……本当にここに居ていいのだろうか…。ここにいる事によって真央に迷惑をかけてしまう事はあるのだろうか。
そんな冬の始まりだった。
春になったら私は大学を卒業する。就職先は元々決まっていた。
そして卒業前に卒論の制作に取り掛かるので、今よりかはずっと忙しくなると思う。
その話をまだ真央には出来ずに居た。



