泣いて、凪いで、泣かないで。

*回想*

「美凪」

「あぁ、ゆっと。どうしたの?」

「どうしたはこっちのセリフだ。何かあったのか?」

「いや、なんでもないよ。疲れちゃったからちょっと休憩してただけ。行こ」


美凪は立ち上がったが、直後にふらついた。


「おっと」


俺はギリギリのところで美凪を抱き止め、そのまま座らせた。


「大丈夫じゃねえだろ」

「ごめん...」


美凪のおでこに手を伸ばそうとして一瞬ぴくりとした右手は、結局太ももに乗せられた。


「気分良くなってから登ろう。俺も一緒に行く」

「ありがと」


俺達はその後、10分くらい、後続の集団にニヤニヤされながらやり過ごした。

美凪が高いところが苦手で、バス酔いもするってことを、俺はすっかり忘れていた。


「もう大丈夫そう」

「ほんとか?」


立ち上がり、土を払う。


「うん。だって...」


美凪も同じようにジャージについた土を払って...俺の瞳に入り込んだ。


「ゆっとがいるから」