泣いて、凪いで、泣かないで。

「汐衣愛、おまたせ。行こ」

「うん!」


汐衣愛と共に向かうのは体育館だ。

俺はバスケ部で、汐衣愛はマネージャー。

一見どんくさそうに見えるが、汐衣愛はしっかりしているし、きびきびと動く。

練習メニューの管理と記録を一手に担い、後輩の指導にもあたる頼もしきマネージャーだ。


「ねぇ、ゆっと」

「ん?」

「みーちゃん怒ってなかった?だって今日突然お願いしちゃったから」

「いーや、全然大丈夫だ。美凪はこんくらいのことじゃ怒らねえよ」

「そう?」

「あぁ、そうだ」

「なら、良いんだけど...」


汐衣愛が回りのことに気を配れるようになったとは、大分進歩したものだ。

汐衣愛はマイペースでちょっとKYなところもあるから心配していたんだ。

しかし、そんな心配も無用らしい。

汐衣愛は、高校3年で色々と成長したからな。

おそらく俺の何十倍も心身共に大きくなったんだ。

150センチのやせ形という華奢な体格で、ボールの入ったかごを動かしたり、縦横無尽に駆け回って大声出してアドバイスしたり、部員のユニフォームの洗濯をしたり...。

改めて考えると、娘の成長を見ているような気分になった。