泣いて、凪いで、泣かないで。

「みーちゃん、昨日のお笑い見たぁ?」

「えっ?昨日?」

「昨日ねぇ、タヌキンズが出てたんだよぉ!今はお笑い第8世代なんだってねぇ。後は、光るピロリ菌にぃ、カナリアにぃ、アネモネの姉ヶ崎さんにぃ......」


汐衣愛のお笑いの話に美凪が興味ないことを俺は十分承知していた。

昇降口に着くまで延々と聞かされていたけれど、その間俺は汐衣愛の話に笑顔を浮かべながら、美凪の視線を感じていた。

俺に何か言いたいのか、

俺に何かしてほしいのか、

俺は感じ取れても、

美凪の感情全てを理解することができない。

汐衣愛のように素直に笑ったり、泣いたりできる人間だったら、こんな俺でも分かるのだが、生憎美凪はそうではない。

ただ何かを感じるばかりで、

俺はそれに気づいても気づかないふりをしてスルーしてきたけれど、

それが良くないことだって、

それだけははっきりと分かっていた。

それでも、今日も始まって

終わる。

俺の心に霧がかかったままで、終わるんだ。