「あら、結人。もう出発?」


眠い目をこすりながら、色気の無い上下ジャージ姿の母が俺に近付いてきた。


「おはよ、母さん。俺は結月より先に出るから。結月と父さんのこと起こしといて。10時までに登校だから、せめて20分後くらいには起きねえと間に合わない」

「そう。分かったわ。2人を起こしてからまた寝させてもらうわね」

「あぁ。母さんはゆっくり寝ろよ。夜勤中ぶっ倒れられたら困るから。んじゃあ、行ってきます」

「うん、行ってらっしゃい」


総合病院の小児病棟で看護師として働いている母さんは、自由な父さんのお陰で不安定な家計を支えるため、月の半分以上は夜勤に出る。

自分の身を削ってまでして家族を守ってくれる母さんに、俺は頭が上がらない。

だから、母さんには文句の1つも言わないし、ストレスを抱えないように体を労って生活してほしいと心から思っている。

ドアを閉め、母さんが鍵をかけてくれたことを音で察して俺は歩きだした。