泣いて、凪いで、泣かないで。

「ちょっと、おにい!逃げるな!」


逃げるな...か。

確かに、逃げてるよな、俺。


「結月、お兄ちゃんなら大丈夫だから」


母さんは優しいから、いつも俺を信じて見守ってくれてるけど、俺、本当はそんな良いやつじゃねえよ。

勉強も運動もそこそこだし、

大事なものも守れない、

そんなしょうもない男だ。

それでも俺と共に在ろうとしてくれる人は大事にしようと、俺なりに努力して生きてる。

それが今出来る精一杯なんだ。

皿をゴシゴシと洗い、水気を切って布巾で拭く。

この一連の動作を俺はずっと美凪に頼ってきた。

当たり前が当たり前じゃなくなり、早3週間。

俺の吸うこの家の空気は前より不味くなった。