泣いて、凪いで、泣かないで。

花火大会が終わり、漁港近くの汐衣愛の家まで送り届けた。


「ゆっと、今日はありがとぉ。ゆっとのとってくれた金魚さん、後でパパに頼んでおっきな水槽買ってもらって、そこで悠々自適に泳がせてあげる」


汐衣愛、悠々自適って言葉、知ってたのか。

日本語にとことん弱いから、汐衣愛の口から出てきてびっくりした。


「そうだな。そうしてもらえると金魚も嬉しいだろう」

「うん!」


さすが、水城水産の娘、発言が桁違いだ。

一体どんな水槽にこの小さい金魚が泳がせてもらえるのか、今から楽しみだ。


「じゃあ、お名前つけないと。そうだ!ちょうど3匹いるから、シーフードと凪んちょと夏きんぎょにしよっ!ずっと仲良く一緒に暮らそうね~」


汐衣愛、美凪、夏綺。

ずっと一緒にいてほしい。

俺もそう思う。


「金魚に話しかけて不気味だぞ」

「そう?」

「そうだ。もう夜だし、変な人だと思われないように黙っとけ」

「はぁい」


返事は随分ご立派だが、数分後には忘れてどうせ寝るまでずっとお喋りしているんだろな。


「んじゃあ、俺は帰るよ。また今度な」

「うんっ!水槽届いたら連絡するから、見にきてね!」

「分かった。じゃあ...また。おやすみ」

「グッナイ、ゆっとぉ~」


今度は英語かよ。

汐衣愛は俺が見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。

例によって大げさな振り方だが、気にしないでおこう。

それが汐衣愛らしさで、

それがいい。