泣いて、凪いで、泣かないで。

「みな、絶対苦しいよね」

「えっ...」


なっちゃんがぽつりと呟いた。

たぶん、私の気持ちを推し量ってくれているのだろう。

なっちゃんをあんまり心配させちゃダメだ。

私は精一杯の笑顔で言った。


「苦しくなんてないよ。だって今だっておじさんの家でバイトしてるから、ゆっとと会えるし、夕飯だって一緒に食べてるし、だから......」

「大丈夫って、そう思いたいだけなんだよね、きっと。みなのこと、ずっと見てきたから、ワタシ分かるよ。みなは色んなこと我慢して言えなくて...自分を傷付けてる。今日だって、急に言われたんだから怒れば良かったんだよ。そんなのムリだって言ってみなの気持ち押し通せば良かったんだよ?」


私は顔を上げて、朝と同じように桜の木を見つめ、ひらひらと舞い散る桜の花びらに手を伸ばした。

ひとひらの桜の花びらが私の手のひらに吸い込まれるように着地し、私はそれをじっと見つめた。


「みな?」


なっちゃんが不安そうに私の顔を覗き込む。

私はそんななっちゃんに言いたかったことを少しだけ言った。


「私、ゆっとの側に居られればそれでいいんだ」


私の想いがこの桜のような色ならば、私はその気持ちを圧し殺すしかない。

だって、叶わないんだから。

叶えたくても、叶わない願いだから。


「どんなにわがまま言われたっていい。ゆっとが笑ってくれれば、それが1番なんだよ」

「そうなの?」

「うん......」


なっちゃんは半信半疑だったけれど、私はそう思い込むしかないんだ。

どうか、この心が騒ぎ出しませんように。

そう願って桜並木を通り、

その向こうに広がる凪の海を見つめているしかなかった。