泣いて、凪いで、泣かないで。

「おい、勝手に座るな」

「あっ、ごめん。今すぐ、どけまぁす」


ゆっとが不機嫌感丸出しで帰ってきた。

しかも1人で。

しーちゃんはどこに行ったのだろう。

しーちゃんは人気者で、常に色んな人に連れ回され、しーちゃん自身もほいほい着いていくから、ゆっとは独り占めできなくて不機嫌なのかもしれない。

今はそっとしておこう。


「美凪ちゃん、放課後に返事聞くから、考えておいて」

「あっ、うん。分かった」

「じゃあ、また放課後」

「うん」


爽くんはノートを置きっぱなしにして自分の席に戻った。

私はノートの文字を見返した。

水族館、カフェ...。

私の人生初デートの場所だ。

私が行きたいと言って、3年前の春頃、初めて2人きりで行ったんだ。

なんか、懐かしいな...。

そして、切ない。

胸の中で風鈴のような繊細で儚い音が鳴った。