泣いて、凪いで、泣かないで。

午前5時。

美凪のお母さんが帰ってきた。


「ごめんね。本当にご迷惑おかけしました」

「いえ」


俺の服はまだ半乾きで生乾き臭が辺りに漂っているが、ひとまず気にしないでおこう。


「美凪は昔から雷とかお化けとか嫌いだからねぇ。ワーキャー騒いでなかった?」

「怖いっていって泣いてました。でもすぐに眠ってしまったので、疲れていたんだと思います」

「そっかぁ。美凪、自分でわりとなんでもやっちゃうから大人になった気でいるけど、まだぜんぜん子供なのよね。だからまもっと私がちゃんと美凪を見るようにするわね。教えてくれてありがとう。私も反省だわ」

「いえ、そんなことは...」

「いいのよ、いいのよ。気にしないで。この教訓は結子さんにも伝えておくから。夜勤の鬼は卒業かもねぇ」

「ははは...」


おばさんと俺の母は、同じ高校で、同じ大学の看護学部と医学部だったらしく、異様に仲が良い。

休暇も合わせてとったりして旅行にも出かけている。


「じゃあ、俺はこれで...」

「あら、帰っちゃうの?おばさん寂しいから一緒に朝食食べてよー」

「父と妹に怒られますので...」

「分かったわ。じゃあ、とりあえず......」


そう言うと、おばさんはガサゴソと冷蔵庫を漁り始めた。


「これ。美凪が作ってたのよ。ほら、ここに鳴海家ってなってるでしょ?」

「あっ...」

「皆で食べてね。あと、これ。患者さん退院して、お礼にって、さくらんぼねぇ、こんなにもらっちゃったんだけど、2パックあげるわ。昨日のお礼ね」

「ありがとうございます」

「もらいものでごめんね。今度、めっちゃすごいゲームでも買ってあげるから」


ゲーム...。

おばさん、俺のこと、一体何歳だと思ってるんだろう。

17だし、受験生だし、ゲームやる暇ないのですが。


「なんて、冗談よぉ。もっとマシなの持っていくから。じゃあ、気をつけて帰ってね。といってもすぐそこか。はははっ!」

「はい。では、失礼します」

「うん。また来てね~」