泣いて、凪いで、泣かないで。

俺はいつも閉め忘れている勝手口から入った。

全身がずぶ濡れだが、そんなの構っていられない。


「美凪っ!」


俺は名前を呼んだ。

いる場所はおおよそ分かる。

昔は美凪の祖母と一緒に使っていた1番奥の部屋だ。


「ゆっと!ゆっと、助けて!」


俺を呼ぶ声が耳にこだます。

確かに俺の名を呼んでいる。

昔みたいに。