きみに ひとめぼれ


修学旅行が終わっても、私と勝見君の関係がピンク色に染まることはなった。

バスの中でつながれた手は、学校に到着しても離れることはなかった。

みんなが続々と降りる準備をする中、私たちだけが止まっていた。

ただ、握る手だけに力がこもった。

でも、「おい、行こうぜ」という声を合図に、勝見君の手はすっと離れた。


それから話すこともないし、期せずして連絡先を知ることができても、やり取りをすることはなかった。

「私たちの関係って……」なんて聞くこともできない。

私は過呼吸になりそうなほど大きなため息ばかりついている。


何度目かわからないため息をついたとき、加奈子がずかずかと教室に入ってきて大声で話し始めた。


「本田君と太田さん付き合うことになったらしいよ」


「えー」と教室に歓声が上がる。


「修学旅行で太田さんが本田君に告ったらしいよ。

 太田さんたちが男子テニス部の前ではしゃいでいるのは知ってたけど、本田君もまんざらじゃなかったんだね」


その話を聞いて、思わず固まってしまった。

ざわざわざわっと胸のあたりに黒い靄がかかりだす。

呼吸も心拍も早くなる。


__私には、もう関係のない話。



そう頭の中で自分に言い聞かせて、必死で落ち着かせようとしているのに、言い聞かせようとするほど胸の辺りがざわつく。

目が泳ぎ始める。

どこを見ていいのかわからない。

息ができない。

「へー、そうなんだあ」なんて、何でもない顔して、他の子と同じように流してしまえばいいのに。

そして、徐々に目がかすみ始める。


「あかりー、元気出してよ」


その声に、血の気が引いていくのがわかった。


__やめて。


「本田君のことはしょうがないよ。前からあの二人仲良かったらしいじゃん。

 付き合うのは時間の問題だったって。

 だから元気出して」



__「だから」って何?



「もう、そんなんじゃないってば」


 
一生懸命笑顔を作る。

ちゃんと弁解しないといけないのに、ちゃんと声が出ない。

勝見君が、聞いてるのに……


チャイムが鳴って、みんなが席に着き始めた。

「じゃあね」と言って加奈子は去っていった。

本当に台風のように。

私に、胸のざわつきだけ残して。