きみに ひとめぼれ


もう一度、勝見君の顔をちらりと見る。


__寝てる、よね?


私もすっと目を閉じた。

こういう時、なんて言うんだっけ?

ほら、古典で習ったじゃん。

ああ、そうだ。


__ええい、ままよ。



息を一つふーっと吐きだして、私はゆっくり体を傾けた。

頬から伝わるカッターシャツの感触と、匂い。

大きく吸い込むと、鼻から甘いため息がどっと出る。


__もう少し、もう少し。


ゆっくりと勝見君に体重を預けていく。

頭がしっかり肩に触れて、腕同士が重なったとき、勝見君の体が動いた。

勝見君は組んでいた腕を離して座面に手をつき、ゆっくりと体勢を直した。
 
もう後戻りできない。

こんなことをして顔なんて合わせられない。

私はこのままの体勢で行こうと決めた。

うっすらと目を開けると、勝見君の手が見えた。

まだ座面に手を置いている。


__触れたい。


 まただ。

 もう我慢できなくなっている。


私はスマホを握っていた左手をストンと落とした。

勝見君の手があるところに。

勝見君の手がぴくんと反応する。

勝見君の小指に触れた私の小指は、どうしようもなく勝見君に甘えたがっている。

勝見君の体温が指先からじわじわと伝わってくると、熱くなった血液が体中を巡りだす。

勝見君の手が動いたのが分かった。

勝見君の手が、私の手のほんの少し上でとどまっているのがわかる。

時々勝見君のてのひらの感触が私の手の甲に擦れてくすぐったい。

ふんわりとかざされた勝見君の手。

あいまいに乗せられたその手は、私のことを試しているのだろうか。

勝見君の手がまた動いて、私の手から一瞬離れる。


__離さないで。

そう思った瞬間、私は勝見君の指を数本つかまえていた。

顔なんて見れないから、もうこのまま寝たふりを通す。

心臓はうるさすぎて、息も苦しかった。

気づかれないように、鼻で大きく何度も深呼吸を繰り返す。

勝見君の手は、優しくゆっくりと私のてのひらの方に潜り込んでいく。

その動きに合わせるように私も手を動かした。

そうして、手をつないだ。

ドキドキしてるけど、その瞬間、安心した。

すごく温かくて、大きな手に包まれて。


__男の子の手って、私たち女子の手とは全然違うんだ。


勝見君が隣でごそごそと動いている。

体を勝見君に預けたまま、その動きを感じていると、ふわりと手に微かな重みを感じた。

手元がまた、じんわりと温かくなってくる。

薄目を開けると、学ランが掛けられている。

つながれた、手の上に。

まるで、この瞬間を守るように。

この時間がずっと続くように。

安心感に満ちた私は、勝見君に甘えるようにすり寄った。

学ランの中でつながれた手と手は、やがてゆっくりと指を絡め始めた。


 温かい。


そのぬくもりは、私の心のくすんだ部分を、溶かしていくようだった。