「ここ、いい?」
不意に声をかけられて振り向くと、目の前に勝見君がいた。
何を聞かれているのかわからなくて、すぐには返事ができなかった。
何度か瞬きをすると、少しずつ状況がわかって、慌てて言った。
「あ、うん、どうぞ」
私はそうぎこちなく答えて、姿勢を正した。
そして、言ってしまってから気づいた。
男子と座るのは、自分ではないことに。
頭の中であたふたしている間に、勝見君は荷物を足元に置いてしまった。
すぐに何か言えばよかったんだけど、勝見君はすっかり腰を下ろしてしまった。
座面が微妙に中央に傾く。
私は思わず窓際の方にずれた。
勝見君はしばらくごそごそと動いていたけど、すぐに落ち着いてスマホをいじりだした。
長い親指で画面がスクロールされる。
頭にそっと置かれた手の感触を思いだして、胸が苦しくなった。
__もう一度、この手に……。
その操作をぼんやりと横目で見ていると、由美たちが帰ってきた。
由美は驚いた顔を見せた。
私も慌てて立ち上がりかけて、何かを伝えようとしたんだけど、由美は笑顔で「いいよ、いいよ、そのままで」と手で合図してくる。
私もぎこちなく「うん、うん」とうなずくだけだった。
勝見君は、そんな私たちのやり取りを気にもとめずにスマホを操作し続けた。
後ろから由美たちのこそこそと話す声が聞こえる。
何を話しているかはわからない。
「ねえ勝見君」
いきなり由美が後ろから声をかけてきた。
「みんなで撮った写真送るし、連絡先教えて」
「ああ、うん、ありがとう」
そう言って、由美はあっさり勝見君と連絡先を交換した。
私も、交換したいな。
でも、言えない。
「ありがとう」と言って由美は自分の席に戻る。
しばらくすると、私のスマホにグループへの招待メールが届いた。
由美がメッセージグループを新たに作ったようだ。
隣では、勝見君の手もせわしなく動く。
しばらくすると、私のスマホに勝見君がメッセージのグループに追加されたことが表示された。
思いがけず、勝見君の連絡先を知ることとなった。
「前の二人も招待してもらっていい?」
「ああ、いいよ」と言って勝見君はスマホを操作し続けた。
班の全員が参加すると、何枚もの写真が送信された。
しばらくはそれを見て過ごした。
勝見君が写っている写真。
嬉しかった。
いろんな思い出がよみがえってくる。
そんな写真を見ている間にバスが出発した。


