きみに ひとめぼれ


プリントを出し終えて教室に戻ると、まだ掃除の最中で、教室の窓が開け放たれていた。

生ぬるい風がふわりふわりと吹いてきて、汗で首元に巻き付いた髪を乾かしてはさらっていく。

教室中の埃が渦を巻きながら吐き出されていくと、だんだんすがすがしい空気が戻ってくる。

すると、先ほどの生ぬるい風が嘘のように変わった。

次の季節が顔を出したようだった。

その風に誘われるように、窓際に寄り添った。

ふと窓の外を見ると、サッカー部が練習している。

勝見君が、そこにいた。

私にはサッカーのルールなんてよくわからないけど、勝見君が楽しそうなのはわかる。

上手いのもわかる。

ボールが勝見君に吸い寄せられる。

ボールが勝見君に恋をしているようだった。

勝見君はゴール近くまでボールを運ぶと、思い切り足を振り上げた。

そのままシュートかと思ったら、同じチームの人にパスをする。

あれは、広瀬君だ。

広瀬君も学校では評判のイケメンで、よく目立つし華やかな人だから、女子からの人気も高い。

広瀬君がゴールを決めた。

それと同時にピーっと甲高い笛の音が鳴る。

サッカー部を見ていた女の子たちのキラキラとした歓声が上がる。

みんなが広瀬君に駆け寄る。

一方で勝見君は、コートの隅の方で、一人でリフティングをしている。

その姿は、やっぱり楽しそうだ。

ボールは勝見君から離れようとはせず、正確に勝見君の頭や胸や足に着地して、また同じ軌道を正確に描きながら離れていく。

そして再び、勝見君のところに戻ってくる。



__勝見君。

 

心の中で彼の名前を呼んだ。

風がふわりとその声をさらっていく。

頭でリズムよくボールをリフティングしている勝見君と、ふと目が合った。

勝見君が動きを止めると、ボールもようやく勝見君から離れていった。

勝見君はじっと私の方を見ていた。

私もじっと見ていた。

思わず顔が緩んだ。

勝見君の目尻も、ゆっくりと下がる。



__勝見君、好きだよ。



口元がむずむずしていた。

今すぐここから叫びたいくらい、私は勝見君を好きになっていた。