観察中はとても静かな時間が流れた。
顕微鏡を交代で見ては自分の席に戻って書き込む。
それの繰り返し。
何度か勝見君と見に行くタイミングが重なりそうになった。
私はそのタイミングを上手くずらすようにしていた。
今日最後の授業なので、書いた人から提出して教室を出ていく。
教室からはどんどん人が少なくなっていくのに、私のプリントは一向に埋まらない。
何度見に行っても、思い通りに描けないではないか。
消しゴムでごしごしと消しながら、ふーっと鼻から息が漏れる。
机にも、いつの間にか私と勝見君しかいない。
勝見君はあの時と同じように、面倒くさそうに頬杖をついてシャープペンを動かしていた。
顕微鏡を見に行く代わりに、時々シャープペンをくるくると回している。
何を考えているのだろう。
勝見君のことが気になって、私も手が止まった。
勝見君は、あの話を聞いてがっかりしたかな。
確かに本田君のことはまだ気になってる。
見かけたら、やっぱかっこいいなあと目で追いかけてしまう。
それは認める。
でも好きなのかと言われたら、自分でも答えはわからない。
失恋して、これからどうすることもできないのに、好きでいたってしょうがないのに、あきらめるしかないのに、どうしてこんなに心が揺さぶられるのか、わからないのだ。
だけど今わかっているのは、私が今何とかしたいと思っているのは、本田君ではない。
勝見君だということ。
勝見君の誤解を解きたい。
目を見て、にっこりとしたい。
また二人で笑いたい。
図書室で、秘密のような時間を過ごしたい。
勝見君の隣にいたい。
私たちの関係は確かに何もないんだけど、だけど私の中で勝見君は、すでに何もない人ではない。


