きみに ひとめぼれ


加奈子とは仲がいいんだけど、結構騒がしくて集めてきた情報を大きな声で話す癖があるので、たまに恥ずかしくなるというか、私まで噂話をしていると思われるのが嫌だなと思う時がある。

本人に悪気はないんだけど、好き勝手しゃべりたいことをしゃべって台風のように帰っていくから、こちらも疲れてしまう。

ちょっと無神経なところもあるのだ。

そこが苦手で、声をかけられるとため息が漏れる。

そして今、最も話したくない相手だった。

二学期が始まってから、私は加奈子から逃げ続けていたのに、油断した。


「あかりー。ほんと残念だったね」


加奈子が教室に入ってきたときから予測はしていたけれど、やはりその言葉にどきりとする。


「な、なんだった?」


思わず声も上ずった。

何の話かは分かっていた。

だから咄嗟に席を立とうとしたけれど、加奈子が軽い身のこなしで近くの席に着くなり私の腕を引っ張ったので元の席に引き戻される。


「夏休み前の告白の話」


その言葉に体が固まる。

教室内のざわめきが一瞬静かになった気がした。

私の固まった体から、一気に血の気が引いていく。


本田君のことを加奈子に話すつもりはなかった。

むしろ絶対言いたくなかった。

面白がって騒ぎ立てることは目に見えていたから。

でも、いつまでもしつこく聞いてくるから、私の心も折れて話してしまったのだ。

嘘でも何でも誤魔化せばよかったのに、こういうところが私は弱い。

だから、告白だって、うっかりしてしまったのだ。


別に告白するつもりなんてなかった。

遠くから見ているだけでよかった。

それが、加奈子には納得いかなかったようだ。

加奈子は私に、強く、強く、強く、告白を勧めた。

本田君に告白をして、彼がOKを出す可能性をつらつらと述べた。

その後のキラキラとした恋人生活も。

その言葉に、私もなんだか行けるような気になったのだ。

私の中でゼロパーセントだった本田君が彼氏になる確率は、ぐんぐんとそのパーセンテージを上げていった。

そして、彼女に手を引かれるがまま、テニス部の部室前で、本田君がやってくるのを待っていた。

そして、気づいたら告白をし終えて、すっかり心が空っぽになったまま帰路に就き、そのまま夏休みを迎えたというわけだ。