部活が始まる時間はとっくに過ぎていたけれど、勝見君は慌てることもなく私と一緒に下駄箱まで降りてくれた。
「遅くなってほんとごめんね。部活もう始まってるのに」
「気にしなくていいよ」
「勝見君、サッカー部なんだね。なんか意外」
「そうかな? 何部に見える?」
「帰宅部」
「よく言われる」
「ははっ」と笑った顔がやっぱり勝見君っぽくて、私も思わず顔がほころんだ。
「サッカー好きなんだ」
「うん」
「勝見君がサッカーかあ……」
「そんなに意外?」
「一生懸命走ってる姿が想像できない」
「これでも一応体育祭のリレーの選手なんだけど」
「えっ? それも意外。
失礼だけど、体育祭とかで目立つこと、あんまり好きじゃなさそうだし」
「それは正解なんだけど、しょうがないんだよ。
体力測定の結果順だから。
ちなみに去年も走ったんだけどね。
まあ、知らないか」
知らなかった。
去年は確か、本田君しか見えていなかった。
彼もリレーの選手だった。
そんなことをふと思い出したら、つい歩くペースが落ちた。
私の隣を勝見君が通り過ぎていく。
その時、ふわりと勝見君の匂いがした。
その匂いが、私の思い出を連れ去っていく。
折り曲げられた長袖カッターシャツから延びる長い腕。
そこにつかまりたいと思った。
そう思って、私は思わず口にしていた。
「今年は、ちゃんと見てるよ」
勝見君はゆっくりと振り向いた。
そして恥ずかしそうに笑った。
「見てなくていいよ」
勝見君はそう言ったけど、私はきっと見てしまうと思う。
勝見君を。
私が追いつくのを待って、勝見君は再び私の歩調に合わせて隣を歩いてくれた。


