きみに ひとめぼれ


勝見君が待っているからいつもより速く歩いた。

ほぼ走っているような早歩きで階段や廊下を駆け抜ける。

一度外に出るためにわざわざ下駄箱にも寄らないといけない。

すれ違う人や窓に映る風景が風のように流れていく。

部室棟を通り過ぎて、テニスコートが目に入る。

テニスコートに女の子たちが集まっている。

自分はつい先日まで、その人だかりの後ろにいた。

後ろにいて、彼をそっと見ていた。


「本田君、今こっち見てたよね?」


その名前に心臓が飛び跳ねた。

何かが溢れてくるのをぐっとこらえて、目を伏せて今までよりも早く、もうほとんど走ってそこを通り過ぎる。

悔しいけれど、伏せた目が少しテニスコートを見たがってちらりと視界に入れる。

体操服から延びるすらりとした腕。

さらさらとした髪。

やっぱりかっこいい。

話したこともなければ、声だってまともに聞いたことがない。

それでも好きだった、本田君のことが。

好きになってしまった、本田君のことを。

完全な一目惚れ。