帰ってきた数学のテストは、もちろん散々なものだった。
数学は私の苦手科目だ。
まあ、数学だけじゃないんだけど。
今日は数学の宿題が当てられている。
私に解けるはずもない。
白紙に近い数学のノート。
手に握られたショウジョウバエらしき絵。
勝見君。
頭の中で三つがぐるぐると回る。
そのすべての点を線でつないだら、私の頭の中に光がさした。
勝見君がゆっくりと立ち上がって、プリントを出しに教壇に向かおうとしている。
それと同時に、私の手が勝見君の方に伸びた。
「ねえ」
私の手は、勝見君のカッターシャツの袖を捕まえていた。
そうやって引き留めないと、もうこのチャンスはやってこないと思った。
勝見君のカッターシャツに触れた瞬間、またあの感覚が私を包む。
指先から優しいぬくもりが全身を伝ってしびれさせる。
心臓がドキドキし始める。
勝見君の顔は見られないけど、彼の視線が私に突き刺さるのを感じていた。
「あの……見せても、いいよ」
小さな声しか出ない。
「え?」
「絵、見せるよ。その代わり……」
「俺のも見せる?」
「そうじゃなくて……」
ムキになって顔を上げると、ニヤニヤとした勝見君の顔とぶつかった。
思わず目をそらした。
でも、一瞬ペースを乱してくれたのが良かった。
「数学の宿題、当てられてるんだけど、教えてくれない?
勝見君、数学得意なんでしょ?」
ドキドキはいつの間にか消えていて、平常心で言えていた気がする。
だけど、勝見君の顔は見られない。
「はい」とショウジョウバエのプリントを裏返しのまま彼に手渡した。
それを、彼はするりと抜き取って、彼も私の目の前にプリントを差し出す。
「いいよ」
その柔らかな声に、心がぱあっと明るくなっていく。
目の前に差し出されたプリントを、私もゆっくりと受け取った。
「せーの……」なんて掛け声もなく、二人同時にめくった。
そして、二人同時に笑った。
「ははっ、下手すぎ」
思わず本音がぽろりと出てしまった。
でも、心は軽かった。
だって、勝見君が笑っていたから。
「そんなに変わんないじゃん」
と、目尻を思いっきり下げて。


