きみに ひとめぼれ


終業のチャイムが鳴ってふーっと一息つくと、目の前から声をかけられた。


「ねえ、見せて」


その声に顔を上げると、勝見君が穏やかな顔でこちらを見ている。

静かで甘い響きの声だった。

こんな風に話しかける人なんだと少し驚いた。

いや、今までだって、きっと何度か授業で話しかけられたのかもしれないけど、こんな印象だっただろうか。

勝見君は目を弓なりにして私を見ていた。


「あ、その……、絵」


勝見君は私の手元のプリントを指さす。


「え……、い、いやだよ」


咄嗟に断った。

正直絵に自信はない。

むしろひどい。

提出して先生に見せるのもはばかられるのに、勝見君になんて絶対見せたくなかった。


「俺のも見せるから」


彼はそう言うけれど、よっぽどの自信作なのだろう。

だからそんなことが言えるのだ。


私は知ってしまった。

勝見君は頭がいい。

何でも飄々とこなす。

隠れ完璧男子。

あの日から勝見君を目で追いかけて、いろいろ仕入れた私の情報によるものだ。

最後まで首をぶんぶん振って拒み続けると、彼は残念そうに引いてくれた。


それなのに、そのまま提出してしまえばいいのに、私は下手くそなショウジョウバエの絵を見つめたまま動けないでいた。


__勝見君と、もっと話したい。


でも、どうしていいのかわからなかった。

勝見君は書き終わって、机の上の教科書や筆記用具をまとめ始めている。

私は目を泳がせて、何かないかと周りを探した。

何の当てもないのに。

だけど私の耳に微かに届くブーンという機械音だけ、何か言おうとしているようで天井を仰いだ。

そこには、エアコンとともにフル稼働する扇風機があった。

私の顔に、扇風機の風が直でぶつかってきた。

その風が、あの日、あの数学のテストの時に、風がゆるゆると勝見君をなでていたのを思い出させた。