きみに ひとめぼれ


そんな彼は今、私の目の前でショウジョウバエの観察をしている。

いつもは教室で行う生物の授業も、こうしてたまに生物室に移動することがある。

四人掛けのテーブルには水道やガスコックがついていて、いかにも理科室っぽい。

教室の壁には標本がずらりと展示されている。

電気をつけても薄暗いし、空気も何だか独特なのがこの生物室だった。

私と勝見君は、そのテーブルに向かい合わせで座っている。

今まで何とも思わなかった、勝見君が自分の真正面に座っていることを。

勝見君は面倒くさそうに頬杖を突きながらプリントの上でシャープペンを動かしている。

こうして真正面から意識して見るのは初めてだった。

普段ちらちらと盗み見る勝見君は、いつも目尻を下げて笑っている。

その笑顔は、勝見君にすごく似合っている。

授業中は、こんな顔をするんだなと、新しい発見につい見入ってしまう。

すると、勝見君がちらりとこちらを見て目が合ってしまった。

慌てて目をそらした。