きみに ひとめぼれ


ふーっと今日何度目かのため息をついたとき、教室が急に騒がしくなった。


「本田君と太田さん付き合うことになったらしいよ」


そう言って教室にずかずかと入ってきたのは、以前坂井さんに本田のことをあれこれ言っていた女子だった。

「えー」と教室に歓声が上がる。


「修学旅行で太田さんが本田君に告ったんだって。

  太田さんたちが男子テニス部の前ではしゃいでいるのは知ってたけど、本田君もまんざらじゃなかったんだね」


俺はその話を受け流すように聞いていたけど、その名前にはっとして、思わず坂井さんの姿を探した。

坂井さんは押され気味に報告を受けていた。

その表情は曇っていて、だけどその目は鋭かった。

坂井さんは無理に笑顔を作って、何か言っているみたいだった。

よく聞こえなかったけど、明らかに楽しい話ではないことぐらい俺にもわかった。

ちらちらと聞こえるその女子の大きな声や仕草に苛立ちを覚えた。


チャイムが鳴って、何事もなかったかのように授業は始まった。

だけど俺は授業中も坂井さんが気になってしょうがなかった。

それはいつものことなんだけど、今日はなおさらだった。