きみに ひとめぼれ


サービスエリアまでの一時間、俺たちが口を開くことはなかった。

お互いスマホを見たり、外を眺めたりして過ごした。

それでも、彼女の隣にいられるだけで、俺は嬉しかった。

サービスエリアで降りると、俺は飲み物を買って学ランを脱いだ。

バスの中は熱気がこもっていて暑かった。

バスが出発してしばらくすると、騒がしかった車内が急に静かになった。

その中で、彼女が控えめに俺に話しかけてきた。


「勝見君、学ランは?」


突然のそんなことを聞かれたから驚いて、一瞬だけ間があいた。


「ああ、バスの中暑くない? 狭いから窮屈だし」


俺はそう答えながら足元を指さした。


「そう、だね。

 勝見君って、普段からあんまり学ラン着ないよね。
 
 いつもカッターシャツのイメージ」
 

うちの学校は学ランの下はTシャツとかでもいいんだけど、学ランを着ない場合はカッターシャツじゃないといけない。

だから、俺はいつも学ランの下にカッターシャツを着ている。

すぐに脱いでしまうから。


「学ランかっこいいのに」


その言葉に一瞬どきっとなる。


そのかっこいいは、どういう意味なんだろう。


思わせぶりはやめてくれと心の中で言いながらも、顔はにやけてくる。


「学ランって窮屈なんだよね。腕とか首回りとか。
 
 こんなん着て勉強しろっていう方が間違ってると思わない?」
 

にやけた顔をごまかすために冗談っぽく言ったつもりだったけど、「うーん」と彼女は難しそうな顔をした。


「確かにカッターシャツの方が動きやすそう。

 でも、勝見君の学ラン姿も好きだよ」
 

またどきっと心臓がはねた。

彼女は、何でもなさそうな顔をしている。

無意識に出た言葉だろうか。

期待はしないほうがいいんだろうか。

頭の中がグルグルしてきた。


周りはしんとしていて、バスがスピードを上げている音しかしない。

すっかり寝静まって、起きている人はたぶんそう多くはない。

彼女もそれを感じ取って、小さな声で話を続ける。


「でも、学ラン脱ぐときは気を付けないと。

 カッターシャツの襟、おかしいよ」
 

そう言って、彼女は俺の首元に手をかけた。

ほっそりとした指が首筋にあたる。

その指はとても冷たかった。


彼女の顔と体が、俺の間近にあった。


__このまま顔を近づけたら……


俺は無意識に、彼女に顔を寄せていた。

それでも、彼女と俺の視線が外されることはなかった。