きみに ひとめぼれ


二泊三日の京都旅行を終えて、いよいよ学校に戻る時間となった。

バスの周りには京都を惜しむ人やまだお土産が足りないと走る人、トイレに向かう人が多かった。

俺たちは早めにバスに乗り込んだ。

バスの中にはほとんど人がいなかった。

帰りももちろんじゃんけんで誰が女子と座るかを決める。

その結果は、すでに出ていた。


俺は、ちゃんと勝ったんだ。


そして、俺を先頭に三人でバスに乗り込んだ。

バスに乗り込んで、ずらりと並ぶ座席を眺めてはっとなった。


坂井さんが、一人で座っていた。


岡田さんたちはいない。

一人なのだろうか。

どういうつもりで、一人で座っているかわからない。

本当に一人なのか。

それとも、後から隣に誰かが座るのか。

だけどそんなことを考える前に、また俺の頭の中で声がする。


__行け。


俺はその声のままに、まっすぐその席に向かった。

彼女は頬杖をついて窓の外を見ていた。

なんだか寂しそうだった。

そうだよな、あんなに楽しそうだったし。

帰りたくなくなるよな。

彼女の心中を察しながら、俺はそっと声をかけた。


「ここ、いい?」


坂井さんは驚いてこちらを見た。


「あ、うん、どうぞ」


鞄を足元に置いて、彼女の隣に座った。

俺は他の二人のことを気に留めようとしなかった。

きっと不審に思っているに違いないんだけど、二人は俺たちの前の席に素直に座った。