きみに ひとめぼれ


その後どうなったかというと、特に何か関係が発展したわけでもない。

俺たちの距離はそのままだし、目が合うことがあってもそらしてばかりだ。

特に話しかけたり話しかけられたりもない。

振り出しに戻ったようで、一定の距離は変わらない。


どうしてこんな平気でいられるんだろう。

あんなことがあったのに。

俺なんて、心臓が飛び出しそうな出来事だったのに。

坂井さんだからなのか。

それとも、女子はみんなそんなもんなのか。

あれが普通で、男子に求める最低限の勇気で、それは当たり前なのか。

わからない。


とりあえず、修学旅行の計画で話すきっかけのようなものができたのは、必然の前進かもしれない。

俺はそう自分に言い聞かせて、紙に埋め尽くされていく修学旅行の計画を眺めた。

時々、


「勝見君はどう?」


なんて、楽しそうに聞いてくるから、


「それでいいよ」


と同意する。

一見デートの計画を立てているカップルのようだけど、俺に聞いた後には他の男子二人にも同じように聞く。

同じ視線と、同じ眼差しで。

ほら、また。


「ねえ、勝見君は?」

「それでいいよ」

「もう、そればっかだなあ。どこか行きたいとこないの? 

 もっと意見だしてよ」


「だって、言っても採用されないじゃん」

「そんなことないよお、ねー」


と、女子同士で顔を見合わせて楽しそうに笑う。

彼女のセーラー服が、俺のすぐ近くをこすって逃げる。

カッターシャツとは違う匂い。

ごわごわとして重たい生地。

ちらりと目をやると、首元が開いていて彼女の鎖骨がよく見えた。