今日の坂井さんのノートは相変わらず真っ白なんだけど、自分で何となく解こうとしているのがわかる。
努力の証が、最初の数行に刻まれていた。
今も彼女がこんなに近い距離にいてドキドキするけれど、それは前回ほどではない。
その代わり、もっと近づきたい、そんな気持ちが膨れあがってくる。
もっと肩や腕を密着させられたら。
シャープペンを持つ彼女の右手に、少しでも触れられないか。
目を合わせられないか。
もっと笑い合えたら。
そんな欲望に似たものが、ふつふつと湧いてきてしまう。
自分を落ち着かせようと、説明にもシャープペンを持つ手にも力が入る。
何かに集中しなければ、頭で思っていることを無意識にやってしまいそうだった。
「じゃあ、坂井さんもやってみて」
何とか説明しきって、彼女にバトンを渡す。
彼女は俺の顔を不思議そうに見つめていた。
なんだろう。
どういう意味だ?
何かわからないのだろうか。
「どうして勝見君は、シュートを打たなかったの?」
__え?
一気に力が抜けていく。
「俺の話、聞いてた?」
「ゴールの手前まで来てたのに、広瀬君にボールをパスしたでしょ?
勝見君にだってシュートできる距離だったのに。
そのあともずっとそうしてたよね? どうして?」
ああ、とおれは合点がいった。


