きみに ひとめぼれ


ピーっと集合の合図が鳴ってダラダラと顧問の近くに集まる。

「ダラダラするな」と一喝されて、チームに分かれて試合をする。

俺は今日もいつも通り送られてきたパスをゴールまで運ぶ。

ボールを取ろうとするやつをひょいひょいと切り抜けたり、フェイントでパスを出したり、ボールは俺の思うままに動いてくれるから面白い。

俺はサッカーが好きだった。

それだけは、自分のこととしてよくわかっている。


ゴール手前まで来て、シュートを決めるやつを探す。

広瀬だ。

今日もこいつは絶好調だな。

グラウンド脇で女子たちが声援を送っている。

広瀬にポーンと軽くボールを渡す。

ボールはきれいな放物線を描いて広瀬の足元にピタリと落ちる。

今日もうまくいった。

俺はここまででもうすでに満足だった。

すぐにシュートが決められる。

歓声とともに広瀬のもとにみんなが集まって、タッチしたり背中をたたいたり、頭をクシャっとしたりする。

それを受け終えた広瀬は俺のところにやってきて「ナイスアシスト」と爽やかに声をかけて去っていく。

ようやく風がスーッと吹いてきて、汗でぬれた首筋や髪に心地よかった。

転がったボールを拾い上げてリフティングをして息を整える。

ボールの行方を追いかけて体を動かしていく。

自分の教室が、ちらりと目に入った。

自然と体もそちらに向きを変える。

リズミカルに俺の体の上をはねるボールは、どんどん教室の方へ流れていく。

ボールがふわりと身長を通り越していったとき、窓際に人影が見えた。

窓の桟に手をついて、こちらをそっと見ている。

それが誰なのか、俺は何となくわかっていた。

俺が動きを止めたから、ボールは虚しく地面に落ちて転がっていく。


坂井さんと、目が合った。


こんなに離れているのに、俺たちはぐっと近くで見つめ合っているような気がした。

俺たちはそのまましばらく目を合わせていた。

坂井さんも、決してそらそうとはしなかった。

俺がいる位置からでも、坂井さんの目元と口元がゆっくりと緩やかに動くのが分かった。

俺もそれにつられて、表情筋を緩めた。

こんな風に視線を交わし合ったのは初めてだった。

こんなに遠いのに、彼女の存在がすごく近くに感じられたのが嬉しかった。

九月の暑さをさらっていくような、心地よい風がそよそよと俺たちの間を渡っていく。



良い風だ。



ほらね、俺の直感は、よく当たるだろ。