きみに ひとめぼれ




「…………だめ」





 僕はぽつりと言った。




__そんなの、ダメに決まってるじゃないか。

  そんなこと聞くなよ。

  わかってるくせに。




目の前に広がる地面が、どんどんぼやけてくる。


僕はその目を閉じて、ゆっくり鼻で呼吸をした。



「……って言っても、行くでしょ?」



僕はうっすらと目を開けて言った。

声だけは努めて明るくしたつもりだった。

どんな風に聞こえていたかは、もうわからない。


「先、行けよ」


そう言ったけど、あいつは何も言わずに僕と歩調を合わせ続けた。

いつもの歩調。

隣を歩く、ゆるゆるとした心地よい速さ。

いつもの、安心する足並み。

だけど、安定していた歩調が速度を上げるのがわかった。

あいつの背中が僕の視界に入ってくる。

そして、どんどん遠ざかっていく。

僕はゆっくりと歩みを止めた。

そして、その結末を、しっかりと見届けようと思った。