きみに ひとめぼれ


坂井さんにとって、あの修学旅行はどんな思い出になったんだろう。

隣を歩く坂井さんをちらりと見た。

切ない気持ちが溢れてくるのに、頬が緩む。


今からあいつと合流するから一緒にどうかと誘ったけれど、今は合わせる顔がないからと彼女は先に門へと向かった。


「じゃあ、また明日」


彼女は僕に手を振った。

女子に手を振られることなんて初めてだった。

どう振り返すのが正解なんだろう。

グラウンドから校舎に向かって恥ずかしげもなく両手を彼女に振っていたあいつの姿が思い出された。

僕は軽く手を挙げて、彼女に応えた。

それが精いっぱいで、それすら恥ずかしかった。