きみに ひとめぼれ


バスに乗り込むと、元の席に戻った。

僕が座っていた席の後ろは、まだぽっかり空いている。

その席を一瞬見て、僕は自分の席に座った。

そして、みんなが元の場所に腰を落ち着けると、バスは再び出発した。

僕はスマホを手にすると乱暴にロックを解除して、何の目的もなくスマホの画面をスライドした。

自棄になっていた。

とりとめもなくネットニュースを読み漁った。

情報は何も入ってこない。

何も面白くない。

スマホの画面をいったん切ったけど、もう一度明るくした。

先ほど送られてきた写真でも見て、修学旅行の思い出にふけることにした。

ああ、ここも行ったな。

こんなの食べたな、と思い出がよみがえってくる。

京都の風景とか、食べたものの写真が中心で、僕たちが映る写真はほとんどない。

あってもグループでなんとか撮った集合写真が何枚かあるぐらいだ。

怒涛の旅行日程だったけど、女子に連れまわされて、そのサポートばかりしていたように感じるけど、それも含めて全部楽しかった。

そう思えたのは、写真に写る坂井さんの笑顔がまぶしかったからだ。

どの坂井さんも、輝いて見える。

その写真たちに頬を緩ませた。

気持ちがだんだん落ち着いていった。

リズムよく画面をスライドしていた。

それなのに、ふと指が止まった。

たった一枚の写真で。


あいつと坂井さんが、顔を見合わせて笑っている写真。

そこに写る坂井さんは、今まで見たどの写真の坂井さんよりも輝いて見えた。

その目に映るのが、あいつだから。


僕はその写真を長い間じっと見つめた。

坂井さんのかばんに張り付く、生八つ橋に目を留めて。