きみに ひとめぼれ


夜が近づいてきて、空はだんだん暗くなってくる。

その暗闇の中から吹いてくる風は、すっかり冷たくなっていた。

僕の体は少しだけガタガタと震えていた。

だけど、あいつはその風に真正面から吹き付けられても全然動じなくて、むしろすがすがしい顔をしていた。


「うん」


その風の音に紛れるように、あいつの返事が聞こえたような気がした。

その言葉に、その表情に、何も返せなかった。

二人で十分風にあたっていると、集合時間になった。


「そろそろ行こうぜ」


そう僕が言わないと、たぶんあいつも僕も、その場にずっといたような気がする。


「なあ、園田」


バスに乗り込もうと動いた瞬間、あいつが声をかけた。

振り向くと、あいつは僕にちゃんと視線を合わせていた。


「席、代わろうか?」


 気持ちがぐらぐらと揺れた。

 あいつの目が、僕を捕まえて離そうとしなかった。 

 あいつは僕をじっと見て、答えを待っていた。

 僕はぐっと歯を食いしばった。

 そして、答えた。



「いいよ、別に」