きみに ひとめぼれ


バスが出発してしばらくすると、サービスエリアに着いた。

僕とあいつは一緒にバスを降りた。

あいつは相変わらず僕と目を合わせようとしなかった。

何か話そうともしなかった。

僕も、何を話していいかわからなかった。

いつもの感じでなんとなく一緒にいたけれど、声のかけ方も忘れてしまったように話せない。

トイレに行って、飲み物を買って、そこまで行動を共にしたのに、僕たちにやっぱり会話はなかった。

だけど、バスに乗り込む前にようやくあいつが口を開いた。


「よかった? 席」

「え?」


それしか言葉が出ない。

またドキドキと心臓がうるさく高鳴りだす。

あいつはやっぱり僕と視線を合わせないまま言った。


「おまえが座るはずだったのに」


あいつの口調はとても穏やかだった。


「別に、いいよ」

「せっかく女子とお近づきになれる貴重なチャンスだったのにな」

「そんなチャンスいらねえよ」


僕のその答えは、たぶん、半分強りだ。


「おまえは、良かったの? せっかく勝ったのに」


その問いかけに、あいつは答えなかった。