きみに ひとめぼれ


女子たちのうるさい声が教室に響き渡るのはいつものことで、もちろんそんな話題に全く興味はないんだけど、この時ばかりはその話題に耳を傾けずにはいられなかった。


「あかりー、ほんと残念だったね」


「あかり」とは、もちろん坂井さんのことだ。

その名前が出ただけで俺の耳は敏感に反応していた。


「な、なんだった?」

「夏休み前の告白の話」


先ほどまで隣にいる園田の話をふんふんと聞いていたのに、急に聞こえなくなる。

周りのざわめきさえ。

俺はもうほとんど固まっていたと思う。

その話を聞くために、その声にだけ意識が集中していた。


「何度思い出してもため息が出るよね。

 ほんとに告白するなんて私も思わなかったからびっくりしたし。

 でもいい場面に居合わせたよ。人の告白なんてなかなか見れないし。

 しかも本田君でしょ?

 あかりは相変わらず面食いだよね。

 で、どうなの? 長い夏休みの間に吹っ切れたの?」


坂井さんの返事は、いまいち聞こえなかった。

だけどその答えを知りたい俺としては、素知らぬ顔を装いながらも、内心ではみっともないくらい聞き耳を立てていた。


「あかりはフラれても引きずるタイプだもんねー。

 中学の時に好きだった人だって、なかなか吹っ切れなかったしね。

 あの人も、本田君みたいなイケメンだったし、タイプも何となく似てるかも。

 だから友達として、ほんと心配なんだよね」


だけど聞こえてくるのは、そんな友達の安っぽい言葉ばかりだった。


「あ、ありがとう。でも、もう大丈夫だから」


俺が拾えた最後の言葉は、坂井さんの弱々しい声だった。

だけど、それは俺をちっとも安心させてくれるような答えではなかった。


始業のチャイムが鳴って、彼女はようやく解放された。

無意識のうちに坂井さんをじっと見ていた。

だから彼女と目が合った時、すぐには動けなかった。

そんな俺の代わりに、坂井さんはすぐに顔をそらして下を向いた。


__本田、か。


その聞き覚えのある名前を、俺はゆっくりと思い出していた。