坂井さんが教室から飛び出しいくと、はじめはみんな何事かとそわそわしていたけど、やがていつもの教室に戻っていった。
あいつだけが、坂井さんの机の前で俯いたまま止まっている。
「おい、勝見。掃除の邪魔だからどけよ。
フラれたぐらいでぼーっとすんな」
同じサッカー部の広瀬が、容赦ない言葉を浴びせている。
「ああ、ごめんごめん」
あいつは我に返って、無理に笑顔を作って軽い調子でそう言った。
「……ってフラれてないし」
と軽快なツッコミを返せるほどいつも通りだった。
「暇ならゴミ捨て行って来いよ」
「えー、なんで?」
「おまえ、掃除当番だろ。わかってる?」
「そう、だっけ?」
あいつはしばらくぼんやりしていたけど、押し付けられたゴミ箱を素直に受け取って、とぼとぼと教室を出ていった。
大丈夫だろうか。
さっきの言葉を訂正すると、全然いつも通りではなさそうだ。
いや、きっと相当ダメージを受けている。
だって、あいつは掃除当番ではないのだから。


