そこまで考えて、ぐすんと鼻をすすりながら体を起こした。

そして一度呼吸を整えた。

溢れてきた涙をぬぐって、姿勢を正す。



__もうやめよう、何もかも。

 本田君も忘れる。

 勝見君も忘れる。

 もう全部なかったことにしよう。



もう一度スマホのロックを解除して、さっきの写真を呼び出す。

画面の下の方にある、小さなごみ箱を見つめた。

でも、指先はそのゴミ箱に触れようとしなかった。

スマホの画面に大きく映し出された写真から、目が離せない。

あの瞬間の私たちが、変わらずそこにいる。

目尻を下げた勝見君。

その隣には、自然と笑っている私がいる。

その瞬間を、消すことなんて、できるわけないじゃん。




__勝見君。




その名前を心の中で呟いたとたん、また涙があふれてきた。

スマホを胸に抱きしめると、体が前のめりに崩れていった。

私の頭を支えてくれたのは、勝見君と勉強した、この机だった。

大粒の涙がスカートにぼたぼたと落ちて輪を描いていく。

「うっ、うっ……」と嗚咽が漏れる。



なかったことになんて、できるわけないじゃん。

なかったことになんて、したくない。

勝見君への気持ちも。

勝見君と過ごした時間も。

もう、「何となく」でも、なんでもいい。

抱きしめて。

頭をなでて。

手を握って。

そばにいて。

「好き」って言って。

「付き合おう」って言って。

その目尻を下げて。




「勝見君」




今度は小さく声に出してその名前を呼んだ。

だけど、どんなにその名前を呼んでも、届かないんだ。



だって、一目惚れから始まる恋なんて、上手くいきっこないんだから。