「じゃあ最後に、俺に教える感じではじめから説明しながら解いてみて」
ぼそぼそと聞こえてくる、自信なさげな声。
眉間にしわを寄せる苦しそうな顔。
ノートや教科書をなぞる指先。
シャープペンを握る右手。
__ああ、だめだ。
やっぱりだめだ。
園田の姿を思い出しても、隣にいるリアルな彼女の空気感には、かなわない。
俺の説明を聞く時の真剣な顔。
「わからない」と言葉にしなくてもわかってしまう素直な仕草や表情。
動くたびにふわりふわりと俺の鼻をくすぐる髪。
そして、もうあと少し手を動かしてしまえば触れてしまえる距離にある右手。
カッターシャツが何度も擦れ合うたびに、俺は彼女にはわからないように息を漏らした。
「どうだった?」
その言葉で、はっと意識が戻された。
気づくと、彼女と目が合っていた。
俺は、言葉が出てこなかった。
胸が苦しすぎて、口元が震えていた。
「どうだった?」と聞かれても、彼女の説明はほぼ耳には入っていなかった。
上目遣いのその目に、俺はあの日のように動けないでいた。
「……お、面白すぎ。必死感がすごい」
絞りだした言葉は、俺の心臓の高鳴りをごまかしきれただろうか。
「え?」
もう耐えられなくて、思わず目をそらした。
「余裕なさすぎでしょ」
必死なのも、余裕がないのも、俺の方だった。
なんとか気持ちを持ち直して彼女をちらりと見ると、彼女は不服そうに唇を立てて眉間にしわを寄せている。
「もう、こっちは真剣なんだからね」
「見てたらわかるよ」
__見てたらわかるかな、君のこと。
もっと知りたい。
もっと見ていたい。
触れてみたい。
彼女はふーっと息を吐いた。
やり切った満足感のあるすがすがしい表情に、思わず顔が緩む。
頬杖をついていた手が自然と動いて、彼女の頭を包み込もうとしていた。
だけど、その衝動を、俺はぐっとこらえて、腕をおろした。
「よくできました」
その言葉の中に、すべての欲望をしまい込むのが精一杯だった。


