この物語はフィクションです

早足でトイレへ向かい、誰もいないことを確認すると、ふたりで顔を突き合わせて話をした。


「狂子見たって。すごくない?」


「凛香、何度も言ってるでしょ。狂子なんているわけないじゃない」


美桜は、狂子に似た別のものを見て狂子と勘違いしたのだろう。


そうとしか考えられない。


「SNSもマジですごいから。ほら、見てよ」


9829いいね、3861RT、リプももう確認しきれないくらいだ。


「どんどん本物らしくなって来たんじゃない?」


「そんな……美桜みたいに、狂子に襲われたって勘違いする人がいたら可哀そうでしょ?」


「怖がってくれる人がいるなら、作ったかいがあるじゃん!」


「それじゃ、もっと大騒ぎになっちゃうよ」


焦る私の鼻先を人差し指で突いた凛香が、怖い顔で私を睨む。


「いい? ここからが本番なんだから、絶対バラしちゃだめだからね!」


「でも……」


強気な彼女に対して何も言い返せずに口籠る。


「にしても、狂子を見たってマジで本当だったらどうする?」


――またそんなこと言って。


反論の代わりに大きなため息をひとつ吐いた。


そんな私に、凛香が怖い顔をして言う。


「……私達も気をつけた方がよさそうだよ」


いるはずのない狂子を相手に、何を気を付けたらいいのだろう。