『あのさ、りく‥‥‥』

別れ際、目にはたくさんの涙を溜めてなにか言いたそうにしていた桜。

もしもあの時、告白されていたら一瞬にして気まずい関係に変わっていたかもしれない。

桜とどう接すればいいか分からなかったかもしれない。

引っ越しする桜に笑顔で手を振って別れることも、メールや電話で連絡を取り合うことも、今みたいに会うこともできなかったかもしれない。

それぐらい、俺たちはまだまだ子供だった。

でも、あの日、桜は告白しなかった。 

その代わり、俺に残した言葉は‥‥‥

ーー『美咲と幸せになってね』

俺と美咲の幸せを願う言葉だった。

桜は、優しいやつで相手のことを誰よりも考えるやつで‥‥‥

そんな桜に、俺は見知らぬ間に傷つけていた。

『友達だから』と何度も言ってしまった。

桜のその気持ちを知らずに。