切ないほど、愛おしい

この声は昔からよく知った声。
私の大好きな声。
でも、今は一番聞きたくなかった声。

「あれ、山神先生」
部長の驚いた顔。

そりゃあそうでしょう。
誰も小児科なんて呼んでいないんだから。
今日の産科病棟は落ち着いていて小児科の診察なんて依頼していない。
ってことは・・・

恐る恐る振り向くと、山神先生の横に満面笑顔の雪菜ちゃん。

うわぁ、やられた。

「乃恵ちゃん、具合悪いんだって?」
腕を組みながら、ジッと私を見る山神先生。

「いや、そんなに悪くは・・・」

逃げたい。
今すぐこの場から逃亡したい。

「嘘はダメだよ」

言いながらゆっくりと近づく山神先生を、「お願い誰か止めて」と心の中で叫んでみたけれど、誰も止めてはくれない。

「先生、あの、本当に大丈夫ですから。それに、今勤務中ですし」
1歩2歩と後退りしながら必死に逃げる。

「乃恵、諦めなさい」
いつの間にか後ろに回っていた雪菜ちゃに背中を止められた。

どうしよう、このままじゃマズイ。
パニック状態の頭でこの場からもげ出す方法を考えるけれど、良い案は浮かばない。

そうこうしているうちに山神先生に腕をとられ、近くに椅子に座らされてしまった。