切ないほど、愛おしい

え、ええ?

私はポカンと口を開け、立ち尽くした。

だって・・・
診察室から出てきたのは、先輩の馬場先生。
婦人科で研修中の私の指導医。

ってことは・・・

「こいつが、大丈夫だって言ったんだよっ」
私に向けて指をさし、先輩に声を上げる男性。

「えっ」

私はもう一度マジマジと男性を見た。

そう言えば、昨日の外来でこの人に会ったかもしれない。
いかにも10代の若い妊婦さんに「時々お腹が張るんです。赤ちゃんが心配なんです」と泣かれて、「大丈夫ですよ。診察でも異常はありませんでした」と答えたはず。
検査での所見はなかったし、きっと初めての妊娠でナーバスになっているんだろうくらいにしか思っていなかった。
まさか・・・

「ご主人、奥さんが不安がっておられますので、側についてあげてください」
穏やかに声を掛ける先輩。

時々私の方に視線を送り、何か言いたそう。

きっと、どこかに消えろって言いたいんだろうな。
私がいればご主人が興奮するだけだし。

「あんた、大丈夫だって言ったよな?異常ないって言ったよな?」
「それは・・・」

私は言葉に詰まってしまった。